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イベリスの残映

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ブログについて

創作関係の文字置き場
3分~5分くらいで読める文字を小出しにする予定


●イベリスの残映
魔法と時々剣と血が出てくる薄暗いファンタジー
精霊との関わりが深い国『イベリス』を訪れる少年とそこで過ごす人達の話

※少年漫画程度の負傷・暴力描写があります

設定置き場
http://wagtail.html.xdomain.jp/orig.html
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イベリスの残映

1


「まだ、そこにいるのか」
 
 少年はその声を聞いて我に返った。
 迫る夕闇がじわじわと景色を変え、狭い路地に影を落としている頃だった。
 呼吸が上手く出来ない。視界が揺れる。息を吸うと、冷たい空気が身体の芯を蝕む感覚がする。冷え切った右手を強く握り、掌にある物の感覚を確かめる。それから声の主に目をやった。
 少年の目下には壁に持たれかかるように倒れている男がいた。脇腹は黒く染まっており、濡れた地面には汚れたナイフが転がっている。
 陽が落ち、二人の姿が闇に沈んでいく中で、男の濁った目は少年の顔をじっと見据えていた。
 少年は彼から目を背ける事が出来なかった。沈みかけた思考を必死に巡らせる。
 もうここにいる理由は無い。必要な物は取り返した。早く行かなければ。

(どこへ?)

 過ぎった単純な疑問を頭の隅に追いやろうとする。行くべき場所は決まっている。迷う必要は無いはずなのに、体が思うように動かない。
 一歩、後ろに下がる。じゃり、と靴が地面に擦れる音が嫌に大きく聞こえた。

「俺を見捨てて、逃げればいい」

 心臓が高鳴る感覚がする。
 男の表情は暗闇で分からない。低い、掠れた笑い声が聞こえた。

「お前の家に帰ればいい」

 少年は男の言葉を聞こうとはしなかった。返事もしなかった。気づけば目を背け、その場から駆け出していた。あとは無我夢中だった。正体の分からない疑問から、男の言葉の意味から、自分を取り囲む全てから逃げるように走っていた。遠くに見える街灯の微かな光が、自分がずっと求めていた仄暗い希望に見えた。
 ただ男の最期の姿が、彼の投げかけた言葉が、少年の記憶にずっと焼き付いていた。

「そこにもうお前の席は無い」

「見放されたお前に、帰る場所は無い」


***